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仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)1号 判決

控訴人(被告) 青笹村農業委員会・岩手県知事

被控訴人(原告) 工藤玉吉

主文

原判決を取消す。

控訴人青笹村農業委員会に対する本件訴を却下する。

控訴人岩手県知事に対する被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人等代理人は本案前において、控訴人青笹村農業委員会の控訴に関し「原判決を取消す、本件訴を却下する」との判決を求め、本案につき「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人等代理人において、本案前の主張として「青笹村農地委員会が本件売渡計画を取消す旨の決議をしたのは昭和二十四年五月十九日であり、同委員会は同月三十一日これを被控訴人に通知した。農地売渡計画の取消については異議、訴願の手続が定められていないから、これに関する訴は右日時から起算して一ケ月内に提起すべきであるのに、本訴はその期間を経過した後に提起されたのであるから不適法として却下さるべきである。」と述べ、本案につき「青笹村農地委員会が右売渡計画を取消したのは、右売渡通知書の売渡の時期に重大な過誤のあることを発見したことにもよるのである。即ち右売渡の対象となつた土地の買収の時期は昭和二十二年七月二日であるのに、売渡の時期を誤つて買収の時期以前である同年四月二日としたため第三者所有の土地を売渡した結果となり売渡処分は無効となるからである。」と述べ、被控訴代理人において、右本案前の主張に対し「本件農地売渡計画の取消処分は該売渡計画を変更するものであるから、売渡計画につき認められた旧自作農創設特別措置法第十九条の異議、訴願の手続が認めらるべきものである。しかして右の取消処分に対してはいずれも法定の期間内に被控訴人において異議、訴願を申立て、その訴願裁決書が被控訴人に送達されたのは昭和二十四年八月十日であつて本訴はその一ケ月以内である同年八月二十九日に提起されたのであるから適法である。」と述べ、本案につき「本件売渡の通知書に売渡の時期を昭和二十二年四月二日と表示したのは同年七月二日の誤記と認むべきである。仮にそうでないとしてもその売渡の効果に影響があるものでない。国が売渡の意思を表示した昭和二十三年七月一日当時においては右売渡土地は国の所有に帰することが明確になつていたのであり、これを売渡す旨の意思は明確に表示されているのであるから、国が右所有権を取得した昭和二十二年七月二日に被控訴人に売渡された効果を生ずるものである。」と述べたほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(証拠省略)

理由

被控訴人の本訴請求は、要するに、さきに控訴人青笹村農業委員会は昭和二十二年十二月二十五日本件農地につき被控訴人を売渡の相手方として売渡計画をたてこれを公告したところ、その後同控訴人は昭和二十四年五月十九日右売渡計画を取消す旨決議し同年五月三十一日その旨被控訴人に通知し、もつて右売渡計画の取消処分をしたが、右売渡計画の取消処分は違法であるから、ここに控訴人青笹村農業委員会に対しその取消を求めると共に、控訴人岩手県知事に対し岩手県農業委員会が右に関し被控訴人の訴願を棄却した裁決の取消を求めるというにある。

案ずるに、右売渡計画の取消処分を違法としてその取消変更を求める訴は、当時施行の自作農創設特別措置法第四十七条の二により右取消処分のあつたことを知つた日から一箇月以内にこれを提起しなければならないのであつて、これに対しあらかじめ異議の申立及び訴願をすることは許されないものといわなければならない。けだし右売渡計画の取消処分は、右自作農創設特別措置法に基く行政庁の処分であつて、その効力は単に右売渡計画を初めからそのなかりし状態に復帰せしめるものに止り新な売渡計画を包含するものではなく、右の場合に異議の申立及び訴願をすることを認めた規定は同法上存しないからである。従つて右の場合にたとえ事実上異議の申立及び訴願を経由したとしても、かかる異議の申立及び訴願は違法でその効力がないから、前示訴提起の期間を算定するに当つては、行政事件訴訟特例法第五条第四項の裁決のあつたことを知つた日又は裁決の日からこれを起算する旨の規定は適用されないものといわなければならない。本件につき見るに、本件売渡計画の取消通知による取消処分のあつた日は昭和二十四年五月三十一日で、被控訴人がこれを知つた日も同日であることは被控訴人の主張に徴し明かなところである。しかるに被控訴人が本訴を提起した日は昭和二十四年八月二十九日であることは記録上明かであるから、控訴人青笹村農業委員会に対し右取消処分の取消変更を求める本件の訴は前示出訴期間を経過した不適法なものであることを免れず従つて又控訴人岩手県知事に対し被控訴人の訴願を棄却した岩手県農業委員会の裁決の取消を求める本訴請求も以上に説明したところから結局その利益を欠く不適法なものであることを免れない。被控訴人は以上の点に関し種々その法律上の見解を述べているけれどもこれを採用するに足らない。よつて被控訴人の控訴人青笹村農業委員会に対する本件の訴はこれを却下すべく、控訴人岩手県知事に対する本訴請求は他の争点につき判断するまでもなくこれを棄却すべきものである。

右と異る原判決は不当を免れず本件控訴はその理由あるに帰するから民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 畠沢喜一 杉本正雄)

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